【第二章】二郎、自分の強みと出会う。武器は見えないところに。(30%の希望)
一週間ぶりのインディペ。
マスター川守は「酒一筋」の純米大吟醸を出しながら「二郎さん、SWOT分析って知ってますか?」と唐突に訪ねてくる。
〈夏奈による酒一筋の紹介〉
二郎さん、SWOT分析って知ってますか?
マーケティングでクライアントに対してやったことはありますけど・・・
と自信無げな二郎。
二郎さんから伺ったお話をベースに、二郎さんのSWOT分析を勝手にやってみました。
と川守。
「SWOT分析」とは?
SWOT分析とは、競合や法律、市場トレンドなどの外部環境と、自社の資産、ブランド力、あるいは価格や品質といった内部環境をプラス面、マイナス面にわけて分析する手法。
戦略策定、マーケティング面での意思決定、経営資源の最適化などのためのフレームワークのひとつ。
・「内部環境」→『Strength(強み)』『Weakness(弱み)』
・「外部環境」→『Opportunity(機会)』『Threat(脅威)』
というカテゴリーに分けます。
二郎さんの事はまだ詳しくは知りません。ですが、先日話していらしたことをベースにして、勝手にSWOT分析をやってみたんです。
そうしたらとても面白い事が見えて来たんですよ。
川守は続ける。
私が二郎さんのSWOT分析を勝手にやってみて注目したのは、
■まとめがうまい。
■説明が分かりやすく上手い。
■文章が分かりやすくうまい。
■クライアントの中枢と会える。
■クライアントの中枢に可愛がられる。
と言う部分です。
これをまとめてみると二郎さんの強みは、『経営者クラスの人脈を沢山持ち、経営者に可愛がられるまとめ上手説明上手』だという事。
これ・・・なんだかピンと来ませんか?
誰かに似てませんか?
「人を動かす!」を書いたデールカーネギーです。
「え?デールカーネギー?」「人を動かす?」
聞いたことはあるけど、読んだことはないです。
なんだかすごい人なのは知ってますけど、どうしてここでカーネギーが出てくるんですか?
あらゆる自己啓発書の原点となったデール・カーネギー不朽の名著。人が生きていく上で身につけるべき人間関係の原則を、長年にわたり丹念に集めた実話と、実践で磨き上げた 事例を交え説得力豊かに説き起こす。深い人間洞察とヒューマニズムを根底に据え、人に好かれて人の心を突き動かすための行動と自己変革を促す感動の書。1936年の初版刊行以来、改訂が施されてきた現行の公式版である『新装版人を動かす』から本編30章を収載した。
デールカーネギー。
1888年、米国ミズーリ州の農家に生まれ、大学卒業後、雑誌記者、俳優、セールスパーソンなど雑多な職業を経て、弁論術や成人教育の講師となり、人間関係の先覚者として名をなす。不朽の名著『人を動かす』『道は開ける』など多数の著作がある。
つまり、まとめ上手、説明上手を活かして、二郎さんの人脈にある経営者の言葉、思 考を求めている人に届ける仕事です。
21世紀のカーネギーを目指すのです。
え?そんなことが出来るの?
二郎は二の句が継げない。
もちろん出来ますよ。
二郎さんは気づいてないでしょうけど、このカーネギー的な資質は二郎さんのものすごい武器です。
それを生かすのです。
そして世の中の役に立てるのです。
二郎さんの高木社長に対する思いとあこがれはそのまま若い起業家・経営者が知りたいことです。
が、表に出ない経営者や本を出してない人はそれを届けることが出来ない。
あなたはその橋渡しができる存在なんです。
今まで地味にやってきた事、人脈がそのまま資産になるし、30も半ばを超えているからこそ経験もある。
無名の小さな会社にいるからこそ、小さな会社の悩みも分かる。
まさに「弱みが強みに変わる」うってつけの存在なんです。
でも、僕はネットも苦手でパソコンよりもアナログ派なんですけど・・・。
ネットは環境が変わるとそれに対応しなくてはいけないし、いたちごっこになりがちです。
何より経営者クラスの方達はネットが得意ではない。
そこは安心してください。
それからもうひとつ。
ペリフェラルと言う考え方があります。
ペリフェラルとは、「お隣」とか「境界線」と言う意味の言葉ですが、 要は『自分がやっ たことのある、何らかの経験のある事を伸ばし、商品にする』と言う事。
儲かりそうだからと経験のない分野に踏み込んで大失敗した例は数えきれません。
それはやっちゃダメです。
そんな事が出来るのなら、やってみたい気もするけど。
やりがいもありそうだし・・・。
① ペリフェラルとは「お隣さん」とか「周辺」という意味。
過去に何らかの経験がある仕事の延長で起業テーマを見つけるのが最も安全で、最短時間でマネタイズ(収益化する)する秘訣です。
ペリフェラルとは、そもそもコンピュータと組み合わせて利用される各種の機器のことです。
ディスプレイ、プリンター、ハードディスクドライブ、フロッピーディスクドライブ、フラッシュメモリ、デジタル カメラなどが代表的な周辺機器ですね。
が、ここで言うペリフェラルとは畑村洋太郎先生の提唱する「失敗学」の中で言われる概念で、「接点」とか「周辺」のような意味の言葉。
「ビジネスで培った経験知を生かして、関連のある領域にビジネスの場を求めること」というような意味で使っています。
そのいい例が古河鉱業(現古河機械金属)です。
石炭を扱う古河鉱業から始まって、次には非鉄金属や電線を扱う古河電工が、次はドイツのジーメンス社と一緒になってフ・ジ電機、すなわち富士電機が生まれ、さらにそこから情報通信の富士通が生まれ、数値制御装置のファナックが生まれました。
いずれも、本体の技術を元にしつつ新たな技術分野に進出していくことで成功しています。
② 別の例としてユニクロの例が有名です。
ユニクロと言えば、お手頃な価格で衣料品を大衆へ販売する企業というイメージ。
それが、高品質で高価格帯の野菜を売ろうとしたのです。
まさに強みやイメージとは真逆の方向へ進んで失敗したのです。
もちろん、やってみないと成功するかどうかわからないものですが、その後、ユニクロはGU(ジーユー)という低価格帯のファッションブランドを立ち上げ、大成功しました。
ユニクロに限らず、なぜか「これまで積み上げてきたモノ」を無視して新しい事 業や商品を立ち上げ、見事に失敗する例が多々あります。
もちろん例外はありますが、基本、ペリフェラルな方向に進むべきでしょう。
頭をハンマーで殴られた気がした二郎は自失のまま店を出た。
停まり場のカウンターで日本酒を飲む二郎。
目の前には夏奈がいる。
へ〜、良かったですね〜。
気づいてもいなかった強みが見つかって。
そう、まだ正直、半信半疑だけど独立してみようかな?と言う気持ちが30%くらいは湧いて来たよ。
まだまだじっくり考えてみないといけないけどね。
それにしてもあのマスター、すごいよね。
僕の中の漠然としていたモノを見事に形にしてくれた。
あんな風に、単なる考え方だけじゃなくて、形にして見せてくれたらものすごく分かりやすいよ。
やっぱり人って「具体的な形」にして見せてもらわないとピンと来ないものなんだろうね。
多くの場合、人はカタチにして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのか分からないものだ。
これはかのスティーブジョブズ氏の言葉です。
ジョブズ氏は、たくさんの商品やサービスを生み出し、その多くが世の中に大きな影響を与えました。
彼が見せてくれたのが、徹底した“ユーザー目線”。
お客さんは、“かつて見たことがないモノ”を目の当たりにし、異口同音に、「自分が欲しかったのは、これだ!」と気づいたのです。
ジョブズ氏のすごさは、“お客さんが欲しいと言うモノ”ではなく、“欲しかったモノ” を代わりに考える、生み出すチカラ。
それを徹底したからこそ、お客さんは喜び、まさにジョブス教とも言える、強烈なファンを創り出していったのだと思うんです。
お客さん=クライアント。クライアントの代わりに必死で考える。
それがすべてです。
さて、では二郎さんの門出のきっかけに祝杯を上げましょう。
今日は店じまいするから一緒に呑みましょ!
夏奈が言い、向かった先は夏奈の行きつけのオーセンティックバー昴(すばる)。
ピザパイ、カニ味噌バターなどに舌鼓を打ちながら、国産ウイスキー角、オールドを楽しむ二人。