【第三章】二郎、脱常識を学ぶ。黄金のマインドセット。(50%の希望)
一週間後、インディペのカウンターに二郎の姿があった。
手にするお猪口にはマスターお薦めの陸奥八仙が注がれている。
〈夏奈による陸奥八仙の紹介〉
起業するにしても資金が必要でしょ?
銀行は貸してくれますかね?
その日の会話は、二郎の素朴な質問から始まった。
二郎さん、サラリーマンと起業家の生活で一番変わるのは何だと思いますか?
通勤のありなしと収入の安定性ですか?
そうか、中国古来のことわざ、入(い)るを量(はか)りて出(い)ずるを制す!の精神ですね。
入るを量りて出ずるを制す、とは?
「礼記・王制」には「三十年の通を以て、国用を制し、入るを量りて、以て出ずるを為す」とあります。
「三十年間の平均で、国の予算を組み立てるようにし、まず収入の方をよく押えてから支出の方を計画する」と記されているのです。
財政均衡は、古今の鉄則ですが、現実の世界ではなかなか守られていないようですね。
前職のクライアントはすべて断ち切れ!
唐突に、「前職のクライアントは、すべて断ち切れ」と言いました。
意味のわからない人が大多数だと思います。
詳しく解説していきましょう。
一般に、サラリーマンを辞めるとき、サラリーマン時代に付き合っていたクライアントからの売り上げを当てにする場合が多いようです。
これまで付き合っていた会社が応援してくれる、「仕事を出すよ!」と言ってくれている ――これはまさに甘言です。
しかし、これこそが、実は、大いなる罠、なのです。
既存のクライアントを当てにするという考え方には、私は大反対!百害あって一利なしだと思います。
その理由は簡単。
古巣の会社とか組織を、敵にまわすことになりかねないからです。
ここがとっても重要です。
私は、独立起業を目指す人からの相談に乗るとき、まずはこの部分を確認します。
「今までの取引先は、すべて捨ててください。一円たりとも奪ってはいけません!」と。
これを言われると、全員が口あんぐりです。
中には、憤然と席を立ってしまう人すらいます。
そのくらい衝撃的なのでしょう。
よく、それまでの取引先が応援してくれるというのを当てにして、起業のスタートを切る人がいます。
「初年度は○○万円くらいが見込める。〇〇さんと××さんが支援してくれる」と言っているのです。
果たしてそうでしょうか?
冷静に考えてみましょう。
もちろん、会社を辞めるとき、余計な揉め事とか軋轢(あつれき)はないに越したことはありません。
いわゆる円満退社、円満独立です。
それがもっとも素晴らしいことは、言うまでもありません。
ですがここで、独立する立場ではなく、残された人の立場で考えてみましょう。
独立する人が、いくら円満独立だと考えていても、「本来、自分たちが受け取るべき仕事が、辞めていく人に流れること」をよしとするはずがありません。
ハッキリ言って腹が立つし、気分が悪いのは当然です。
ここが、重要なポイントです。
私自身、同じ立場で同じ体験をしています。
正直、腹が立ったし、苛立ったものです。
事実、私の周囲でも、この「仕事を取った」「取られた」という関係から、それまでいた会社、クライアントの独立した当事者との間で、訴訟になったというケースもいくつかあります。
あるいは、それまで在籍していた会社の営業責任者が、そのクライアントに乗り込み、「あいつ(独立した当事者、つまりあなたかもしれません)と当社とどっちを取るんだ!」と凄んだこともあったらしいのです。
これはどうなるかというと、喧嘩両成敗、一蓮托生です。
要は、両方とも切られてしまう可能性が大です。
それって当然ですよね。
そんなトラブルを抱えた、一触即発の火種のような人に、仕事を出したりできません。
そんな勇気のある人はいないでしょう。
だからこそ、サラリーマンを辞める際には、それまでの取引先はスッパリと手放したほうがよいのです。
独立して、これから頑張ろうという、もっとも大事な時期に、そうしたトラブルに巻き込まれていては、順調なスタートなど切れるものではありません。
経済的にも、精神的にも、スタートダッシュはとても大事です。
そしてそのスタートダッシュを気持ちよく切るためには、余計なトラブル、揉め事は絶対に避けるべきです。
仮にトラブルはなかったとしても、どこかしら後ろめたさのような、負の感情を背負いながら仕事はしたくありません。
それよりも気持ちよく明日へと向かっていけること、ブレーキになりそうな要因を徹底排除した状態、晴れ渡った空のような気分で、日々、仕事に向かうこと――それが一番だと思います。
そう判断したことで、結局、新たなクライアントを生み出す覚悟も決まるし、いろいろな知恵を出すこともできるのです。
その結果、順調なスタートダッシュを切ることができるのです。
それよりも気持ちよく明日へと向かっていけること、ブレーキになりそうな要因を徹底排除した状態、晴れ渡った空のような気分で、日々、仕事に向かうこと――それが一番だと思います。
そう判断したことで、結局、新たなクライアントを生み出す覚悟も決まるし、いろいろな知恵を出すこともできるのです。
その結果、順調なスタートダッシュを切ることができるのです。
オフィスは持つな!
起業する場合、オフィスを構える人が多いです。
私にはそれがとてもおかしなことに見えてしかたがありません。
どうしてオフィスが必要なのでしょうか?
ここでその理由を考えてみましょう。
① お客様が来て打ち合わせをする
② スタッフでミーティングをする
③ 資材、機材を置いておく
こうした機能的な面に加え、
④気持ちを切り替える
などというのもあるかもしれません。
一つずつ検証していきましょう。
① お客様が来て打ち合わせをする
起業家は、クライアントを呼んではいけません。
それが私の結論です。
打ち合わせが必要なら自分から出向くべきです。
自ら出向いてクライアントに関する情報を積極的に手に入れるべきです。
出向くことでクライアントのある場所の周辺情報も手に入れることができるし、共有情報も手に入ります。
相手の様子を直接目で見て、肌で感じることができます。
相手のオフィスに出向くことで、必要な資料などもスムーズに手に入ります。
自分で体感することがとても重要なのです。
相手を呼んでいたのではそうはいきません。
そして何よりもこちらから出かけるほうが、相手にとってもラクなはずなのです。
加えて、クライアントを呼ぶとなると、余計な設備が必要になります。
大きな打ち合わせテーブル。
ホワイトボード。
複数の椅子。
他にもいろいろ必要になってきます。
つまりお金がかかる。
回収できるかどうかわからない部分、いつ使うかわからない部分に、お金を使う必要はありません。
使うとしても、もっと他に重要なものがあるはずです。
中には、あなたのオフィスに顔を出すことを息抜きと考える人もいるでしょう。
その場合はカフェにでも行ってください。
「それをNOと言う人とは付き合わない!」。
そのくらいの気概を示してください。
② スタッフでミーティングをする
これも事務所でやる必要なんてありません。
大体、ミーティングは元来、クリエイティブなもののはずです。
顔を突き合わせて行うミーティングは、何かを生み出すためのもののはずです。
そうではない手続きとか処理は、電話やメールで十分にできるはずだからです。
加えて、もう一つ大事なことがあります。
冷たい会議室のような場所では、大したアイデアも浮かばないのです。
私は、よく公園でスタッフミーティングをしていましたが、環境を変えることで、よいアイデアが生まれることが多いのです。
少なくとも、会議室よりもカフェのほうがアイデアは出やすいはずです。
有名な刑事ドラマではないですが、「事件は会議室で起きているんじゃない」と言うことなのですね。
これが、オフィスをもつなという理由の二つ目です。
③ 資材、機材を置いておく
さて、資材、機材を置いておく場所というのは、要は、倉庫・物置ですよね。
倉庫・物 置にも場所代はかかります。
ひょっとしたら当面、一円も生み出さないかもしれないものにお金をかけてはいけません。
④ 気持ちを切り替える。
確かに、会社 = オフィスに行かないと仕事モード、戦闘モードになれないという人、います。
気持ちにメリハリがつかないという人、います。
そういった人は、起業には向いていません。
起業家は、ある意味、どこでもどんな場所でも仕事ができないといけないのです。
場所を限定してはいけないのです。
だって、サラリーマンと違って、無駄なことをしても給料をもらえる存在ではないのですから。
そう考えると、やはりオフィスは不要です。
オフィスに出向かないとモードが切り替えられないのだとしたら、それは努力して変えてください。
起業家になるということは、ビジネスのスタイルを変えるということだけでなく、あなたの体質自体"を変えることでもあるのです。
起業家で生きていける体質に改善しないといけないのです。
起業家は移動オフィスに徹底したいものです。
でも、「どうしてもオフィスをもたないといけない!」とおっしゃる方もいると思います。
特に、士業の方は、自分の事務所で相談を受けるというのが一般的になっているようです。
ですが、本当にそれしかないのでしょうか?
たとえば、相談相手の元に自ら出向いてこそ見えてくるものもあるし、相手の本音も見えやすいのではないかと思います。
出張相談だけの士業、なんていうのは、結構目立つかもしれません。「それでも事務所をもちたいんだ!」という方は、シェアオフィスのような形式で、できる だけ、一円でも固定費を減らす努力をしてください。
家賃負担というのは思いの外、重たいものなのです。
② 前職のクライアントはすべて断ち切る!揉め事の芽はすべて摘み取っておく。
③ オフィスは持たない。出来るだけ仕事先に自ら出向く。
川守の話を聴き、ここでも頭を打ちのめされたものの、しかし目が醒めた二郎は、ガッツポーズをしながら停まり場へと向かう。
夏奈は今日もニコニコと二郎の話を聴いてくれている。
起業してやって行ける気がが50%くらいはしてきました。
結局、自分がこれまで持っていた常識とか執着を捨てないといけないと言う事ですね。
実際、過去の亡霊に捉われちゃって身動きできない人、多いですもんね。
思うに、もっとも大きなリスクは現在にしがみつくことだろう。悪くすると、過去にしがみついてしまうこともある。
今日の先のばしは明日の憂鬱:リン・ライブリー著:角川書店より。
「今」から抜け出そうとしない人、多いですね。
私の周辺にも沢山います。
人は変化を恐れる生き物だ、と言う言い方をされます。
確かにコンフォートゾーンと言う考え方があって、慣れ親しんだ環境から抜け出るのは実に怖い。
捨てる!と言う気持ちになってしまい、もったいなさも感じるのでしょうね。
ここであなたに質問です。
「今がベストですか?」「今よりももっと良い状態って考えられないのでしょうか?」
ね?今にしがみついていても、まだ見ぬ、新しい何かとは絶対に出会えません。
ましてや未来というのは、過去の延長線上にあるものではなく、新たなスタート台を決めることから始まるのです。
つまり、今にしがみつかず、過去と決別すると言うことは、新たなスタート台を見つける旅に出ると言うこと。
実は私達は、生まれた時から、自分に一番あったスタート台を見つけて生きて来たんです。
生きると言うのはそのスタート台と出会い続ける事だし、多くのスタート台を知っているほど、知識だけでなく経験という厚みも手に入ります。
あなたのスタート台はどこですか?
考えてみて下さい。
常識とか執着をいかに捨てきるか!と言うのが実は勝負だったりするんですね。
そう語る二郎を見つめる夏奈。
この日も早じまいした夏奈と二郎は夏奈おすすめの店「レタスしゃぶしゃぶの吟(ぎん)」で、おいしい鍋と銀だらの西京焼き、そして九州の焼酎に舌鼓を打つのだった。